イタコとは?厳しい修行を経て口寄せを習得した青森恐山の巫女を解説
こんにちは、管理人の凛です。
皆さんはイタコという存在をご存知でしょうか?
青森の下北半島周辺の民間霊媒で、修行を経て能力を身につけたシャーマンの1つです。今回はこの「イタコ」の主な役割や、厳しいと言われる修行内容などを詳しくご紹介します。
死者の霊を憑依させ、その言葉を伝える「口寄せ」が有名
イタコというと、死者の霊を自身に憑依させその言葉を伝える「口寄せ」が出来る巫女として有名ですが、青森の恐山にいるイメージが強いのではないでしょうか?
昭和初期に恐山の曹洞宗円通寺でイタコを例大祭に招いた事が恐山とイタコの結びつきの始まりとされています。現在「津軽のイタコ習俗」は、国の無形民俗文化財に指定されています。
恐山に行ってもイタコに会えるのは年に2回
恐山に行っても、必ずイタコに会えるわけではありません。年に2回、毎年恒例の恐山大祭(7月20日〜24日)、恐山秋詣り(10月上旬の3連休)と川蔵地蔵堂で開かれる「イタコマチ」がイタコの主な活動場所です。それ以外は自分の居住地域で相談事や祈祷などを行なっています。
「イタコ」の語源は2説
「イタコ」という言葉の語源は、2説あります。
- アイヌ語で「神がこう告げた」という意味の言葉である「イタク」が訛った
- 神の宣託(せんたく)を伝える斎巫女(いつきのみこ)が東北地方に流れ着き、「イチコ」と呼ばれたのが訛って「イタコ」となった
イタコの霊能力は厳しい修行で身につけたもの
イタコの能力で最も有名なのは、口寄せ(くちよせ)ですが、依頼者の希望する霊を呼び憑依させるという能力は、並大抵の霊力で出来る事ではありません。しかし、イタコは生まれながらに霊感・霊能を持っているわけではなく、厳しい修行を通じて後天的に霊能力を身に着けているケースが殆どです。
勿論、血縁や先祖に霊能力者がいた家系の出身であれば、その能力を発揮する可能性が高いですが、必ずしもそうとは言えないようです。その理由はイタコになる為の修行の厳しさと言えるでしょう。
厳しいイタコ修行の昔と今
イタコの能力には個人差がありますが、霊能力が高くどのような事でも的中させてしまうイタコは「カミサマ」と呼ばれ、地元では崇敬されている存在です。
では、厳しいと言われるイタコの修行はどのような物でしょう。
昔は盲目・弱視の娘が受ける修行だった
昔、イタコは盲目や弱視の娘が生活の糧を得る為の職業とされていました。大変厳しい修行で、命を落としてしまう娘も多く、辛い修行に耐える事で肉体と精神が研ぎ澄まされ、能力を得てイタコになると言われていました。
修行は現役イタコに弟子入り
現役のイタコに弟子入りし、住み込みで家事炊事をこなしながらイタコに必要なスキルである、祓いの経文や儀式の祭文、イタコ歌などを教わります。
教科書などはなく全て口伝で、一言一句間違えずに覚えなくてはなりません。その為、記憶力が旺盛な幼少期からの弟子入りが望ましいとされ、多くが初潮を迎える前に入門していました。
現在は住み込みではなく通いで修行をし、年齢も義務教育を終えてからというケースが多いです。また、視覚障害がなくても修行は受けられます。
修行は早くて2年、平均は5年前後とされていますが、10年以上かかるケースもあります。修行を経て師匠から独り立ちできると判断されれば、神憑け(かみつけ)の儀式が行われます。
神憑けの儀式は100日前から準備される
神憑けの儀式は文字通り神を呼ぶ神聖な儀式の為、100日前から準備が必要です。
100日前からイタコ候補の弟子は、朝・昼・番に33杯ずつ水垢離(みずごり)で身体を清めます。極寒の季節でも白襦袢1枚で行います。
21日前からは、穀物・塩・火を断ちます。7日前からは小屋に篭り、経文や祭文を唱え続けます。その間も水垢離は続けられ、朝だけ僅かな量の食事をとり、それ以外は完全断食します。そうして肉体と精神を研ぎ澄ませていくのです。
神憑けの儀式当日は白装束を身につける
儀式当日は、白装束を着ます。これは、この世と別れを告げ、あの世に行く事を意味していて、あの世から生還した者のみがイタコとして迎えられます。
地域によっては、儀式成功後は花嫁衣装に着替える所もあるようです。
白装束を身に着けたイタコ候補の弟子は、3斗3升3合入の俵に乗り、師匠や姉弟子たちと一緒に文言を唱え続け、トランス状態を経て気を失うまで続けられます。こうして弟子の身体に降霊をさせるのです。
師匠が審神(さにわ)し、弟子にとって生涯の守護神である「守り本尊」になる神の名を聞きます。弟子が昏倒状態ながらも、その神の名を口走る事ができれば、神憑けの儀式は成功です。
イタコの免状とイラタカ数珠や、梓弓(あずさゆみ)と呼ばれる弓に似た楽器などの道具を授かります。
この時点でイタコ候補だった弟子は1人前のイタコと認められますが、その後3年ほどは師匠の家でお礼奉公するのが習わしとなっています。
神が降りて来ないと儀式は失敗
儀式で神が弟子の身体に降りてこない時は、儀式は失敗と見なされます。この場合はイタコになれず、修行のやり直しが必要です。
この儀式自体も長期間の水垢離や断食がある事から、体調を崩し、そのまま亡くなってしまう娘もいたそうです。
現在の修行は命を落とすほどではないが後継者不足に
現在のイタコ修行は、命を落とすほど厳しいものではありませんが、肉体と精神を研ぎ澄ませる為のものですから、余程の覚悟がないと続けられないでしょう。その為、イタコの数は激減し、後継者も殆どいない状態となっています。
死者の霊を憑依させるだけが口寄せではない。
口寄せは死者の霊を憑依させるだけではありません。大きく3つに分類されます。
- 神口(かみくち) 神の霊にお伺いを立てるもの
- 仏口(ほとけくち)四十九日が過ぎ、成仏した死者の言葉を伝えるもの
- 生口(いきくち) 生きている人の生き霊を呼び、本心や願いを聞くもの
神口のように、神の言葉や意志を伝える物は「神降ろし」とも言われています。これは物事の吉凶や、病気回復や様々な祈願など占いや予言のような物です。時には、地域の人の悩み事を聞き、解決の手助けをするカウンセラー的な役割も果たしています。
「オシラアソバセ」もイタコの大事な役目
オシラアソバセは「おしら様」と呼ばれる東北地方で信仰されている、家の神様の儀式です。おしら様は農業や病気平癒の神とされているのが一般的ですが、祀っている家によって役割が変わります。
例えば、農家のおしら様は五穀豊穣の神で豊作を願い、漁師の家では大漁祈願の神となります。座敷童のように家にいて、家を守ってくれる神様とイメージすれば分かりやすいでしょうか。
ジブリアニメ「千と千尋の神隠し」では、大根の擬人化した神として登場しています。
以前から多くの学者が、おしら様について研究していますが、現在でも謎が多く、いつ、誰がおしら様を祀り始めたのかも解明されていません。
地域によって若干異なりますが、おしら様の御神体はその一族の本家の神棚の隣に祀られる事が多く、桑の木で作られた長さが30cmほどの男女2体をオセンダクと呼ばれる布で覆ったものです。
1月15日前後がおしら様の命日とされ、お供え物と、イタコによる儀式が行なわれます。イタコがおしら様を手に取り、祭文を唱えながら踊らせるのが「オシラアソバセ」です。
オシラアソバセはイタコ以外が行ってはいけないとされていますが、どうしてもイタコの都合がつかない時は、その本家を切り盛りしている女性が代理に行なうケースもあるそうです。男性は絶対におしら様に触れてはいけないと言われています。
オシラアソバセの後は、おしら様へお供えした物と同じ材料で作られた料理を用意して、神様と会食する直会(なおらい)をするのが通例となっています。
おしら様に肉や卵はお供えしてはいけない
おしら様は肉や卵を嫌います。これらをお供えすると、大病を患うと言われているので避けて下さい。おしら様の命日には、肉や卵を食べるのは避け、おしら様へ感謝の気持ちと畏怖の念と忘れずに過ごしましょう。
オシラアソバセは、神様の力を借りて一族や縁者の結束を高める儀式ですが、最近は核家族化も進み、仕事で家を空ける事も多い為、オシラアソバセを行なう家は少なくなったようです。
まとめ
イタコは厳しい修行で肉体と精神が研ぎ澄まされた霊能力が高い巫女で、死者の霊や神の言葉を伝えてくれる貴重な存在です。後継者不足が心配されますが、この伝統が途絶えて欲しくは無いものですね。